ESSAY|エッセイ

父・河崎利明 遺稿集

赤んべえ

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

日光街道を乗用車で走行していた。前に比較的ゆっくり走るバスがある。追い抜こうかとした。ところが、バスは三台つらなって走っているので、対向車の関係から抜くことが出来ない。そこでバスの後ろをのんびり走ることにきめた。

 

前の車は、小学校五年生くらいの団体だ。最後部の一人がぼんやり後ろを見ている。視線があった時ハンドルから手を離し、右手の親指と人差し指で鼻を上に持上げ、舌を出した。

 

彼はすごくびっくりした顔をし突然向き直って友達を呼び、八人の顔が後部の窓から現れた。彼はしきりに説明している。あの車に乗ったおっさんが、こんな顔をしたと手でやって見せている。

 

皆、私の顔をじっと見る。こちらは表情一つ変えない。まじめな表情だ。みんな嘘だと言い出したらしい。彼は必死になって説明し、私に向かって「やれよ、やれよ」と手をしゃくって合図する。私は依然無表情のままだ。がっかりして、一人へり、二人へり、また彼一人だけになった。そこで、また赤んべえをした。彼はこぶしを振っておこった。彼にとって信用問題である。

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父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」

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