冗談居

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

父・河崎利明 遺稿集

Essay|エッセイ

私の青山の家は昭和三十五年に建てた木造二階建で、屋根のアルミは一年で艶を失ひくすぶった。その後、廻りに新しい鉄筋コンクリート造の住宅、小マンションが多く建てかへられた。

 

私の家の正面は青学会館といふ青山学院で経営する結婚式場でその二階以上から我家をながめることはなかった。ところが同郷の友人(国立病院産婦人科の部長)の長女が結婚し、青学会館の三階で披露宴を行ふことになり、私達夫婦も招かれた。

 

八十歳をすぎた友人の母も出席した。私達夫婦が三階から初めて我家を見下していると、彼女が傍に寄って来て「お住ひこの御近所なんですってねぇ、どのお家(うち)?」と訊く。「あれですよ」と目の前の自宅を指さしたら、「あーら、御冗談、あれでしょ」と別の立派な鉄筋の家を指さす。「いや、ほんとにこの家ですよ」と口ごもって返事をすると、「まー、まあ御冗談、じゃ、そのお家(うち)」と別の白タイルの家を指す。母君には私の故郷の三千坪の庭と、何人かの老大工が二年半がかりで建てた家が頭にあるらしい。しかし、一寸くさった。

 

家に帰ると、さっそく妻が「あらあらはずかしい。冗談などといはれて」といふから、「これが私の妻です、あーら御冗談といはれるのとどっちが良い?」とからかった。そしたら、しばらく考へて「まだそれより家の方が好いわ」と真顔で答える。そばで聞いてゐた娘は、「そういふ時は夫に比べて妻が良すぎて、いはれることもあるのよ」

Index

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」

※ご覧になりたい記事のタイトルをクリックしてください

河崎利明エッセイ、こちらに掲載している以外にも多数あります。

ご希望の方には、お送りしますので、詳しくは「コンタクトフォーム」からお問合せください。