何だか変な実話

父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」より

父・河崎利明 遺稿集

Essay|エッセイ

近く定年退職するサラリーマンが社宅を出て住むべき住宅の用地として、近郊の農家からその所有する耕地二ヘクタールのうち三アールを約四百萬円で売ってもらった。前借りした退職金の全部がこれに充当され、彼はそこに家を建て移り住んだ。彼の二人の息子のうち長男が将来その家に住むとしても次男は三十年後会社を退職する時又土地を買わねばならない。その頃は退職金の額も増えているが土地の価格も上っていよう。

月給で生活した残りを建築資金に積立てたとしても三アールの土地を買うには又退職金の全部を出さねばならぬであろう。かくして彼の子孫がサラリーマンである限り、三十年サイクルで退職金でもってその農家の所有農地を全部買うのに何年かかるかを計算したところ何と二千年かかることを知って暗然とした。

 

一方次男の独立資金に三アールの土地を売ったその農家の夫婦は長男と残った土地一・九七ヘクタールの土地に米を作り野菜を作り一年百三十万円の売上げだが、肥料代農薬代と農機具の年賦などを引くと月六万円の生活費を残すのがやっとであった。そして自分の売った土地に家を建てたサラリーマンが自分たちの三倍の収入で衣、食、娯楽の面で自分たちよりはるかに豊かな生活をしていてるのを横目で見ながら額に汗して耕作している。

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父・河崎利明 遺稿集「はとからすやまとりのこみ」

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